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病理検査用語集


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プロトンポンプ(PPI)阻害薬と胃病変

プロトンポンプ阻害薬(PPI)
胃粘膜の壁細胞に胃酸分泌を行うプロトンポンプがあります。
PPIとはこれを阻害する薬剤のことで胃酸分泌を抑制し、胃潰瘍やH,pylori感染の除菌治療、逆流性食道炎の維持療法などで長期的に使用されることが多いです。

PPI関連胃症(PPI-related gastrop-athy)
PPIの長期内服患者において様々な胃粘膜変化が観察され報告されるようになりました。

①多発白色扁平隆起
(内視鏡所見)胃体部~穹窿部にかけて散在性に多発する白色調の大小さまざまな隆起性病変です。
(病理組織像)胃底腺粘膜の腺窩上皮の過形成・腺管の軽度蛇行が見られます。図1

②壁細胞の突出像 Parietal-cell-protrusion(PCP) 
(病理組織像)胃底腺に尖った壁細胞が腺内腔に突出した像、肥大した壁細胞には空砲変性を伴うこともあります。図2
       
③黒点
(内視鏡所見)黒子様の小斑点のことを指します。平滑な胃粘膜深部や胃底腺ポリープに観察されることが多いです。
(病理組織像)嚢胞状に拡張した胃底腺の中に好酸性の物質、無構造で茶褐色の顆粒性の沈着物が観察されます。図3

④敷石状胃粘膜(もこもこ胃炎)
(内視鏡所見)胃体部に観察される所見で周囲胃粘膜と同調で多発する小顆粒状の胃粘膜隆起のことを指します。非萎縮性胃粘膜で多く観察される所見です。
(病理組織像)胃底腺の嚢胞性拡張・壁細胞の過形成・細胞質の空砲変性が特徴的です。図4

⑤ひび割れ様胃粘膜
(内視鏡所見)典型的な敷石状胃粘膜ほど表面の凹凸構造は示さないが部分的に胃粘膜のわずかな隆起を伴い、胃小区の構造が目立つようになるため胃粘膜がひび割れて区画状の構造を示します。
(病理組織像)胃粘膜の隆起部分には壁細胞の突出を伴った胃底腺の拡張が観察され、拡張のない胃底腺とのコントラストとして表出されます。

⑥PPI関連胃底腺ポリープ
(病理組織像)PPI非内服患者の胃底腺ポリープと比べ胃底腺の嚢胞状拡張が目立ち、PCPや腺窩上皮の過形成が見られます。

胃底腺粘膜におけるPPI関連病変

公益財団法人がん研究会がん研究所病理部特別研究員 加藤 洋 先生ご提供

多発白色扁平隆起

図1 多発白色扁平隆起

PCP

図2 PCP

黒点

図3 黒点

敷石状胃粘膜

図4 敷石状胃粘膜

(参考文献)
病理と臨床第39巻6号 消化管の非腫瘍性疾患―最新の知見と注目すべき疾患―福田昌英 上尾哲也 九嶋亮治 石垣宏仁 水上一弘 村上和成

PPI関連胃底腺ポリープ

胃底腺ポリープは高頻度に遭遇する上皮性で良性の隆起性病変で、背景胃粘膜と同色調を呈します。

近年PPIの長期内服患者において胃底腺ポリープが発生することが証明され、6~12か月以上のPPI長期内服と関連することが分かっています。
PPI関連胃底腺ポリープは臨床的に問題となることはないと考えられてきましたが、出血やdysplasiaを伴った胃底腺ポリープの症例報告が散見されるようになってきました。


〇内視鏡所見
水腫様や馬鈴薯様外見を呈します。

〇病理組織像
PPI非内服患者の胃底腺ポリープと比べ胃底腺の嚢胞状拡張が目立ち、しばしば黒点を伴います。
壁細胞の突出像(PCP)や腺窩上皮細胞の過形成もみられます。

〇増殖細胞分布の変化
正常の胃底腺での増殖帯は腺頸部に一致して分布しKi-67陽性となります。胃底腺ポリープでは増殖帯の位置異常が起こるため、固有腺領域でKi-67陽性細胞が観察されます。PPI関連胃底腺ポリープでは増殖細胞が固有腺のさらに深部で観察されるようになります。この変化により胃粘膜深部での中性粘液産生が起こりポリープが増大すると考えられています。
(病理と臨床第39巻6号 消化管の非腫瘍性疾患―最新の知見と注目すべき疾患―より引用)

PPI関連胃底腺ポリープ

胃底腺の嚢胞状拡張

拡大図 PCPが見られる 胃底腺の嚢胞状拡張

(参考文献)
病理と臨床第39巻6号 消化管の非腫瘍性疾患―最新の知見と注目すべき疾患―福田昌英 上尾哲也 九嶋亮治 石垣宏仁 水上一弘 村上和成

ラズベリー型胃癌

胃癌の約99%はピロリ菌感染を背景として発生するとされているが、近年ピロリ菌の感染率の低下に伴いピロリ菌未感染の胃癌への関心が高まっている。

ラズベリー型胃癌はピロリ菌未感染の胃癌であり、腺窩上皮に類似した細胞からなる高分化腺癌である。
この疾患は強い発赤を伴う亜有茎性のラズベリー様の外観を呈するポリープを形成する。
この疾患には播種、転移、死亡例はないが報告数が少ないため、慎重な検討が必要である。

〇内視鏡所見
 ①鮮紅色で赤みが強い
 ②表面構造は絨毛状
 ③腺窩辺縁上皮の幅が狭い

ラズベリー型胃癌は既報通りの典型的な病変が多いが、非典型的な病変も存在しているため、NBI併用拡大観察を含む詳細な内視鏡診断が必要であり、生検後に消失する可能性もあるため内視鏡診断後には完全切除が望まれる。 (※1より引用)

〇病理組織像

<HE染色>
  辺縁に明らかに非腫瘍性(異型性の無い)腺窩上皮がみられ、それとはフロントと領域性を示して表層まで少し濃染腫大した
  円形核の極性が乱された胃型腺窩上皮の増殖が認められる。

<免疫染色>
  細胞増殖マーカーであるMIB1陽性
  腺窩上皮マーカーであるMUC5AC陽性
  ※HE染色だけでは細胞異型、構造異型ともに弱いため、免疫染色の有用性が高い。

ラズベリー様ポリープ

ラズベリー様ポリープ

ラズベリー型胃癌

非腫瘍部↑         腫瘍部↑

(参考文献)
※1一般財団法人日本消化器内視鏡学会.第二回helicobacter pylori未感染と除菌後時代の胃癌発見に役立つ内視鏡診断の構築研究会 抄録 第一部 4.当院におけるラズベリー様腺窩上皮型胃癌の臨床病理学的・内視鏡的特徴
池田厚、上山浩也、内田涼太、宇都宮尚典、阿部大樹、沖翔太朗、鈴木信之、谷田貝昂、赤澤陽一、小森寛之、竹田努、松本絋平、上田久美子、松本建史、浅岡大介、北條麻理子、八尾隆史、永原章仁
宮崎医会誌2020.44.92-98 短期間に増大したラズベリー様腺窩上皮型腺癌の1例
尾上耕治、北村亨、新川仁奈子、吉山一浩、稲倉琢也、山本雄一郎、宮﨑貴浩、髙﨑みる子、小坂裕之、山田浩己、黒岩麻里子、林透

胃癌

下記の表は2018年現在の悪性新生物の罹患数を部位別に順位付けしたものです。 ①より引用
1位 2位 3位 4位 5位
男 性 前立腺 大腸 肝臓
女 性 乳房 大腸 子宮
総 数 大腸 乳房 前立腺
胃癌は男女ともに上位にランクインするほど罹患者の多い疾患です。
好発年齢は50~60代で、女性よりも男性に多く発症します。近年では医療技術の発達や検診による早期発見によって死者数は減少傾向ですが、まだまだ私たちに身近な疾患だといえます。

胃癌はHelicobacter pylori(以下ピロリ菌)との関連性があり、ほとんどの胃癌はピロリ菌感染が原因とされています。ピロリ菌が感染し、長期にわたり胃粘膜の炎症が続くことによって慢性胃炎となり、胃がんの発生率を高めます。
しかし、中にはピロリ菌の関連がない「ピロリ未感染胃癌」と言われる疾患も存在します。
胃癌にはたくさんの組織型(種類)があり、一般型と特殊型の2つに分けられます。
以下に代表的な組織型を挙げます。

<一般型>

・乳頭腺癌
乳頭状、絨毛状構造に明瞭な腺癌のことをいいます。
癌組織は主として円柱上皮から構成されます。
嚢胞状に拡張した癌腺腔内に間質を伴わない小乳頭状に突出する癌も乳頭腺癌に含まれます。

・低分化型腺癌
腺腔形成が乏しいか、ほとんど認められない腺癌のことをいいます。
腺癌であることは病巣の一部に腺管構造の形成や、癌細胞の粘液産生見ることで判定します。
組織像の多様性と生物学的態度から、充実型(por1)と非充実型(por2)に分類できます。 図1

・印環細胞癌
癌細胞内に粘液を貯留する印環型の細胞からなる腺癌のことです。
腺腔形成は見られません。細胞質内に粘液が貯留することで核が偏在した像が特徴的です。 図2

低分化型腺癌

図1

印環細胞癌

図2



胃底腺型腺癌

<特殊型>

・胃底腺型腺癌
胃底腺細胞(主細胞、副細胞、壁細胞)への分化を示す細胞が不規則な腺管構造を形成して増殖する腺腫のことで、多くは胃炎、萎縮、腸上皮化生のない正常胃底腺粘膜から発生します。
ピロリ感染の関連が無いピロリ未感染胃癌の一つです。
・ラズベリー型胃癌
低異型度高分化型腺癌ともいいます。
内視鏡的所見として、発赤の強い亜有茎性ポリープの形をとることが多いです。ピロリ未感染胃癌の一つです。

・内分泌細胞癌
内分泌細胞への分化が明らかな高異型度の腫瘍細胞が充実性、索状、ロゼット様などの構造を取る癌です。毛細血管に富む繊細な間質を伴い、充実性の腫瘍塊を形成して増殖します。
免疫染色でクロモグラニンA、シナプトフィジンなどの抗体を使用することで陽性像が見られるため、充実型低分化腺癌との鑑別が出来ます。

・リンパ球浸潤癌
癌細胞が、著明なリンパ球浸潤を背景にして、充実性あるいは腺腔形成の明らかでない小胞巣状に増殖する低分化腺癌です。
90%以上の症例にEBウイルスの感染があり、関連性が示唆されています。

・カルチノイド腫瘍
組織学的に、小型で均一な細胞からなり、充実性、索状、リボン状、ロゼット様、腺管様の構造をとる腫瘍です。
粘膜深部~粘膜下組織以深で増殖します。
免疫染色ではクロモグラニンA、シナプトフィジン、NCAM/CD56等で陽性になります。

(参考文献)
①最新がん統計,がん情報サービス,国立がん研究センター,閲覧日[2021-8-20]https://ganjoho.jp/reg_stat/statistics/stat/summary.html
②日本胃癌学会,胃癌取扱い規約[第15版]金原出版株式会社 2017年[P32~36]深山正久,大倉康男,
③腫瘍病理鑑別診断アトラス[胃癌]分光堂 2009年[P49~117]


胃底腺型腺癌

胃底腺型腺癌は、Helicobacter pylori (以下ピロリ菌)の関連がない、2010年に提唱された新しい胃癌です。
高齢者の胃の上部に好発し、悪性度は高くなく、予後は良好なものが多いとされています。

胃底腺細胞(主細胞、副細胞、壁細胞)への分化を示す細胞が不規則な腺管構造を形成して増殖する腺腫のことで、多くは胃炎、萎縮、腸上皮化生のない正常胃底腺粘膜から発生します。
そのため、ピロリ菌の関連がない「ピロリ未感染胃癌」のひとつと言われています。

胃底腺型腺癌は内視鏡、病理診断が困難なことが多く、疾患の存在を知らなければ見過ごしてしまうような所見が特徴です。

〇内視鏡的所見
・通常の胃癌と比較して病変が小さく、発見しづらい
・正色調(周囲と同じ色)~褪色調(周囲より白っぽくて色褪せてる)の表面
・粘膜下腫瘍(SMT)様の隆起
・表面に血管拡張が見られることが多い

SMT様隆起

SMT様隆起

胃底腺型腺癌

表面に血管拡張を認める

胃底腺型腺癌

拡大画像

〇病理組織学的所見
・主細胞に類似した好塩基性の腫瘍細胞
・腫瘍細胞はN/C比の低い小型円形の核
・腫瘍深部において癌線管の拡張が見られる
・免疫組織染色ではPepsinogen-Ⅰ、Protonpump H⁺/ K⁺- ATPase、MUC6が有用 ①より引用

HE染色

HE染色

MUC6陽性

MUC6陽性

(参考文献)
日本胃癌学会,①胃癌取扱い規約[第15版],金原出版株式会社 2017年[P36] ②胃底腺胃癌について,順天堂大学医学部附属順天堂病院消化器内科 https://www.juntendo.ac.jp/hospital/clinic/shokaki/about/treatment/igan.html


好酸球性食道炎

好酸球性食道炎 eosinophilic esophagitisは、アレルギー性炎症の原因である好酸球が食道に集まり、慢性的に炎症を起こす疾患です。その原因としては食物などによるアレルギー反応が考えられています。

欧米人に多い疾患ですが、日本でも1万人に2人程度の頻度で報告されています。
比較的に男性に多く、気管支喘息などのアレルギー性疾患が背景に見られる事が多いです。

症状としては成人の場合では嚥下困難や胸やけ、小児の場合では哺乳が上手く出来なくなったり嘔吐や腹痛を起こしたりします。
治療法としては原因であるアレルゲンが分かっている場合にはアレルゲンとなっている食品を除いた食事をすることや、プロトンポンプ阻害薬を服用することで慢性的な経過をたどっていきます。
しかし原因を見つけることができない場合には長期の薬物治療が必要になることや、薬物治療を中止すると再び症状が現れることがあります。(※1より引用)

〇内視鏡所見
 白斑、縦走溝、輪状狭窄、敷石様変化、浮腫、血管透見消失など
 白斑は好酸球が4個以上集簇したeosinophilic microabscess  (※2より引用)

〇病理組織像
 ①食道上皮に好酸球浸潤(強拡大1視野20個以上)を限局して認める
 ②浸潤する好酸球は上皮表層優位で、時に集簇巣(好酸球性微小膿瘍)を形成する
 ③上皮は炎症により浮腫を来たし、時に上皮の落屑を伴う(細胞間浮腫)
 ④上皮基底細胞の反応性過形成を示す (※3より引用)

Eosinophilic esophagitis +細胞増生高度

Eosinophilic esophagitis +細胞増生高度

好酸球浸潤

〈拡大〉 好酸球浸潤(50個/HPF)

(参考文献)
※1 難病情報センター(指定難病98) https://www.nanbyou.or.jp/entry/3934
※2 胃と腸用語集2012 HTML版 https://gastro.igaku-shoin.co.jp/words
※3 胃と腸53巻3号(2018年3月) 好酸球性食道炎の診断と治療
藤原 美奈子 、保利 喜史 、古賀 裕 、森山 智彦 、江﨑 幹宏 、小田 義直
医学書院 発行日2018年3月25日


自己免疫性胃炎 autoimmune gastritis ( A型胃炎 , AIG )

自己免疫性胃炎 autoimmune gastritis ( A型胃炎 , AIG )は慢性萎縮性胃炎の一つです。

抗胃壁細胞抗体や抗内因子抗体などの自己免疫抗体の関与によるものと考えられています。
以前には欧米人に多いとされていましたが、最近では日本人の報告も増加しています。
また、日本人はHelicobactor pylori(H.pylori)胃炎の頻度も高く、A型胃炎と併存している症例も多いと考えられるので病態が複雑であります。
現在のところ確立された診断基準がないため、内視鏡所見、病理組織診断、血液検査を含めた総合的な診断が必要とされています。

〇血液検査(血清学的所見)
 抗胃壁細胞抗体や抗内因子抗体の出現および血中ガストリン値やペプシノーゲンⅠ値・ペプシノーゲンⅡ値の測定が重要です。

〇内視鏡所見
 胃体部優位な萎縮(逆萎縮パターン)の所見を契機に発見されます。

〇病理組織像
 ①壁細胞や主細胞の減少・消失
 ②腺窩上皮/固有腺比の上昇
 ③偽幽門腺化生や幽門腺化生・膵上皮化生の出現
 ④ECL細胞( enterochromaffin-like cell )の線状~管状過形成
 ⑤胃底腺領域における高度な慢性炎症細胞浸潤
 など多彩な病態が認められ、萎縮の進行度に併せて
 initial phase, early phase, florid phase,end stageの4つの病態期に分類されます。
 また、ECL細胞の同定にはChromogranin A染色等の免疫染色は必須となっています。

胃底腺領域の高度萎縮性粘膜

胃底腺領域の高度萎縮性粘膜 (HE染色)

ECL細胞の過形成

ECL細胞の過形成(線状、リング状) 左HE染色症例のChromogranin A染色

(参考文献)
竹村しづき, 九嶋亮治 他:自己免疫性胃炎の病理診断. 病理と臨床 2021, 39:537-544

大腸癌

大腸癌は大腸に発生する癌で、S状結腸と直腸にがんが出来やすいです。

年齢的には50~70歳代に多く男性に直腸がん、女性に結腸癌の多い傾向があり、性差はあまりありません。
早期大腸がんの定義は胃がんの場合と同様で粘膜下層までの浸潤にとどまるものを言います。
早期の大腸癌では症状があまりないため、発見が遅れやすく進行がんで発見されることが圧倒的に多いです。
大腸の粘膜に発生した大腸がんは、壁に深く侵入し直接浸潤、リンパ行性・血行性転移、腹膜播種で進展していき、肝臓、肺、骨髄、脳に転移しやすいです。

〇組織学的分類
 大腸癌では腺癌が約90%を占めています。

腺癌

 ①乳頭腺癌 Papillary adenocarcinoma
  癌が円柱上皮や立方上皮からなり、乳頭状構造をとるものをいいます。 図1

 ②管状腺癌 Tubular adenocarcinoma
  明瞭で大きな管状構造からなる管状構造からなるものを高分化管状腺癌 図2
  中~小型の管状構造からなるものを中分化腺癌と言います。図3

 ③低分化腺癌 Poorly differentiated adenocarcinoma
  管腔形成が乏しいものや腺管形成が陰性でも細胞内粘液が陽性のものの事を言います。
  これには非充実性と充実性の発育様式を示すものがあります。図4

 ④粘液癌 Mucinous adenocarcinoma
  細胞外に多量の粘液を産生し、粘液の結節を形成する癌です。
  その中で高分化粘液癌と低分化粘液癌とに分類されます。図5

 ⑤印環細胞癌 Signet-ring cell carcinoma
  細胞内に粘液が貯留し、癌は印環場を呈するが、管腔形成は見られないか極めて乏しい癌の事を言います。 図4

 ⑥髄様癌 Medullary carcinoma
 リンパ球浸潤を伴って好酸性胞体と明瞭な核小体を有する細胞がシート状に配列、増殖する腫瘍です。 

乳頭腺癌

図1 乳頭腺癌

高分化管状腺癌

図2 高分化管状腺癌

中分化管状腺癌

図3 中分化管状腺癌

低分化腺癌+印環細胞癌

図4 低分化腺癌+印環細胞癌

粘液癌

図5 粘液癌

腺扁平上皮癌
 同一の癌に腺癌と扁平上皮癌とが共存するもののことを言います。

扁平上皮癌
 大腸癌では発生は稀です。

(参考文献)
金原出版 大腸癌取り扱い規約,医歯薬出版 病理学/病理検査学

潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis)

潰瘍性大腸炎は、難治性の炎症性腸疾患であり、慢性・再発性があります。

好発年齢は、20~30歳代の若年者です。発症には遺伝的素因や環境因子が関与しているとされています。
症状としては、下痢、粘血便、下腹部痛、発熱があります。
近年は、発症率の増加とともに治療率が進歩し、長期罹患患者が増加しています。

炎症が脾彎曲部を越える全大腸炎型UCは特に発癌リスクが高く、蓄積発癌率は罹患期間10年で2%、20年で8%、30年で18%と報告されています。罹患期間が長いほど発癌リスクは高くなります。

欧米ではがん化が3~5%と報告されていますが、わが国でも近年報告例が増加しています。

○肉眼的所見
急性期:粘膜に充血、出血、びらんの多発、不整形の潰瘍、炎症性ポリープの密集と散在
慢性期:粘膜の萎縮、半月ヒダの減少と消失、炎症性偽ポリープや粘膜架橋の形成

○活動期
炎症は、直腸から口側に向かって連続性・びまん性に進展します。
脾彎曲部を超える全大腸炎型、脾彎曲部を超えていない左側大腸炎型、直腸までにとどまる直腸炎型、稀に右側あるいは区域性大腸炎型に分けられ、罹患範囲は様々です。
《画像1》のように、炎症は陰窩底部から始まります。陰窩内に好中球が浸潤して起こる陰窩炎(cryptitis)から、その炎症が強くなり陰窩内に好中球が集まる事により《画像2》のような陰窩膿瘍(crypt abscess)が形成されます。また、陰窩膿瘍による陰窩の捻れも潰瘍性大腸炎の特徴の一つです。しかし陰窩膿瘍は、細菌感染症腸炎など他の炎症性疾患でも見られるので特異的ではありません。また、杯細胞減少(goblet cell depletion)も特徴的に見られます。

○寛解期
間質の軽度の慢性炎症細胞浸潤を認めます。また、陰窩の捻れ(crypt distortion)やPaneth細胞化生は持続しますが、陰窩炎(cryptitis)や陰窩膿瘍(crypt abscess)などの活動性の炎症は消失します。また、陰窩底部と粘膜筋板との乖離もしばしば見られます。

潰瘍性大腸炎

《画像1》basal plasmacytosis,crypt distortionを認める

潰瘍性大腸炎

《画像2》典型的な陰窩膿瘍を認める(矢印)

(参考文献)
病理と臨床第37巻臨時増刊号 肉眼病理 症例から探る鑑別のヒント(P176)-下田将之・池端昭慶・岩男泰・金井弥栄
図説「胃と腸」所見用語集2017(P695)

クローン病(Crohn’s disease)

クローン病は炎症性腸疾患の一つで、口から肛門まで消化管のどの部位にも発生します。
10~40歳の若年者に多く、男女比は2~3:1で病因は未だ不明です。
症状としては、腹痛・発熱・下痢・体重減少等があります。
病変は、小腸単独が60%、小腸と大腸合併が20%、大腸のみが20%で起こります。大腸のみである場合、多くは右側結腸で発生します。

○肉眼的所見
縦走潰瘍、密集性のポリープ形成

○組織学的所見
非乾酪性の類上皮細胞性肉芽腫、腸壁の全層にリンパ球の濾胞状浸潤、腸壁の鋭利な裂隙と瘻孔形成

類上皮細胞性肉芽腫とは、下記の《画像2》のように、組織球が集簇した病巣のことであり、境界が明らかな特殊な免疫・炎症反応を示す組織像です。

肉芽腫は、粘膜層内に見られることが多く症例によって頻度は様々です。びらんや潰瘍変化が強い所では、組織標本での肉芽腫の同定が難しくなる場合があります。
結核やその他の肉芽腫でも多核巨細胞が見られることもあります。しかし、クローン病で見られる肉芽腫の多くは小さく、不明瞭な時もあり、壊死を伴わず、多核巨細胞の出現も稀です。

肉芽腫が見られない場合でも、分節的な陰窩配列異常や杯細胞減少、潰瘍縁などの活動性炎症部での杯細胞温存、限局的な形質細胞やリンパ球などの単核細胞の浸潤を示す生検数比が多いもの等が潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis)との鑑別に役立ちます。

クローン病

《画像1》粘膜組織の深部まで炎症細胞浸潤がみられる(矢印)  
HE染色(×60)

クローン病

《画像2》類上皮性肉芽腫が認められる(矢印)    
HE染色(×70)

(参考文献)
臨床検査学講座 病理学/病理検査学 第1版第1刷 (P90)
臨床医が知っておきたい消化器病理の見かたのコツ(P80) -福嶋敬宜 太田雅弘 山本博徳